ハンズオンでは用意されているフロントエンドとサーバーの雛形を使って作成します。それぞれのファイルについて説明します。
- /public/index.html
- 新規登録用の html ファイル
- /public/login.html
- ログイン用の html ファイル
- serve.js
- サーバー用の JavaScript ファイル
- db-controller.js
- サーバーから DB にアクセスするためのメソッドをまとめたファイル
また、DB にアクセスするために serve.js
と同じ階層に .env
ファイルを作成し、.env.example
をコピーして適切な値を入力してください。
.env
ファイルについてはこちらを参考にしてください。
HOST_NAME=
SQL_USER=
SQL_PASSWORD=
DATABASE=
PORT=
denoコマンドでserve.js
を実行して、フロントエンドの画面を表示してみましょう。
コマンドを実行した後、http://localhost:8000/ にアクセスすると確認できます。
deno run --watch -A serve.js
実装を詳しく見たいという方は下記リポジトリをご覧ください。
DID とは分散型 ID のことで、公開鍵暗号技術の公開鍵のことです。人々が自分自身の ID と秘密鍵を管理する方法です。
例えば、今までの ID は大学や会社、Facebook や Google のような大きな組織が管理していました。それらの組織が ID とパスワードを管理し、ユーザーはそれを使ってログインします。しかし、それではサービスごとに ID とパスワードを設定しなければならないので面倒です。またそのサービスがデータを失ったりハッキングされたりすると、ユーザーの ID も危険に晒されることになります。
ここで DID の登場です。DID は自分自身が自分の ID を管理できるようにするものです。自分だけが自分の ID を制御し、誰にどんな情報を提供するかを自分で決定できます。
さっそく新規登録するための API(エンドポイントは /users/register
) を作成しましょう。まずはフロントエンドとサーバーの要件をまとめる必要があります。
フロントエンドの要件
- DID(公開鍵)、パスワード(秘密鍵)、メッセージ、電子署名を生成する
- POST API を叩くときに DID、ハンドルネーム、メッセージ、電子署名を body としてサーバーへ渡す
- 新規登録が完了すればローカルストレージにユーザー情報を保存する
サーバーの要件
- DID、ハンドルネーム、メッセージ、電子署名を受け取る
- 電子署名が正しいかの検証をする
- DID が DB に保存されているかチェック
- 保存されていなければ DID を DB に保存して登録完了する
- 保存されていればすでに登録済みということをフロントエンドを伝える
それではフロントエンドから実装していきましょう。 今回はユーザーにハンドルネーム(name)を入力してもらう程で進めます。
まずは登録ボタンをクリックしたことを通知するために onclick メソッドを <script>
タグ内に追加しましょう。
<!-- index.html -->
<script type="module">
// 送信時の処理
document.getElementById("submit").onclick = async (event) => {
event.preventDefault();
// 名前が入力されていなければエラー
const name = document.getElementById("name").value;
if (name === "") {
document.getElementById("error").innerText = "名前は必須パラメータです";
return;
}
};
</script>
続いて DIDAuth モジュールを使って DID、パスワード、メッセージ、電子署名を作成します。
// DIDAuthを使うためインポート
import { DIDAuth } from 'https://jigintern.github.io/did-login/auth/DIDAuth.js';
document.getElementById("submit").onclick = async () => {
// ...
// `DIDAuth` モジュールの `createNewUser` を使って DID、パスワード、メッセージ、電子署名を取得
const [did, password, message, sign] = DIDAuth.createNewUser(name);
// Formに反映
document.getElementById("did").value = did;
document.getElementById("password").value = password;
document.getElementById("sign").value = sign;
document.getElementById("message").value = message;
};
ここまでできたら実際にサーバー側に /users/register
をエンドポイントとした API を追加して POST リクエストを送ってみましょう。また、did
とpassword
をローカルに保存させる機能も追加しましょう。
// index.html
document.getElementById("submit").onclick = async () => {
// ...
// 公開鍵・名前・電子署名をサーバーに渡す
try {
const resp = await fetch("/users/register", {
method: "POST",
headers: { "Content-Type": "application/json" },
body: JSON.stringify({
name,
did,
sign,
message,
}),
});
} catch (err) {
document.getElementById("error").innerText = err.message;
}
};
// DIDとパスワードの保存処理
document.getElementById("saveBtn").onclick = async (event) => {
event.preventDefault();
const did = document.getElementById("did").value;
const password = document.getElementById("password").value;
DIDAuth.savePem(did, password);
};
// serve.js
serve(async (req) => {
const pathname = new URL(req.url).pathname;
console.log(pathname);
// ユーザー新規登録API
if (req.method === "POST" && pathname === "/users/register") {
}
});
名前を入力して登録ボタンを押すと、サーバ側のログに[POST] /users/register 404
と表示されます。
ここではまだ/users/register
の実装がないため、404になっています。
さらに request の body からデータを取り出し、電子署名の検証、DB に DID が保存されているかのチェック、DB に DID を保存する処理を追加しましょう。
サーバーから DB に接続してクエリを叩く処理は db-controller.js
にまとめます。
サーバーでもDIDAuthモジュールを使います。またserve.js
からdb-controller.js
を使います。
serve.js
にそれぞれのインポートを追加してください。
// DIDAuthとdb-controllerのインポートを追加
import { DIDAuth } from 'https://jigintern.github.io/did-login/auth/DIDAuth.js';
import { addDID, checkIfIdExists } from './db-controller.js';
// serve.js
// ユーザー新規登録API
if (req.method === "POST" && pathname === "/users/register") {
const json = await req.json();
const userName = json.name;
const sign = json.sign;
const did = json.did;
const message = json.message;
// 電子署名が正しいかチェック
try {
const chk = DIDAuth.verifySign(did, sign, message);
if (!chk) {
return new Response("不正な電子署名です", { status: 400 });
}
} catch (e) {
return new Response(e.message, { status: 500 });
}
// 既にDBにDIDが登録されているかチェック
try {
const isExists = await checkIfIdExists(did);
if (isExists) {
return Response("登録済みです", { status: 400 });
}
} catch (e) {
return new Response(e.message, { status: 500 });
}
// DBにDIDとuserNameを保存
try {
await addDID(did, userName);
return new Response("ok");
} catch (e) {
return new Response(e.message, { status: 500 });
}
}
// db-controller.js
import { Client } from "https://deno.land/x/mysql@v2.11.0/mod.ts";
import "https://deno.land/std@0.192.0/dotenv/load.ts";
// SQLの設定
const connectionParam = {
hostname: Deno.env.get("HOST_NAME"),
username: Deno.env.get("SQL_USER"),
password: Deno.env.get("SQL_PASSWORD"),
db: Deno.env.get("DATABASE"),
port: Number(Deno.env.get("PORT")),
};
// クライアントの作成
const client = await new Client().connect(connectionParam);
export async function checkIfIdExists(did) {
// DBにDIDがあるか
const res = await client.execute(
`select count(*) from users where did = ?;`,
[did]
);
// レスポンスのObjectから任意のDIDと保存されているDIDが一致している数を取得し
// その数が1かどうかを返す
// DBにはDIDが重複されない設計になっているので一致している数は0か1になる
return res.rows[0][res.fields[0].name] === 1;
}
export async function addDID(did, userName) {
// DBにDIDとuserNameを追加
await client.execute(`insert into users (did, name) values (?, ?);`, [
did,
userName,
]);
}
サーバーから成功ステータスが返ってきたら DID、password、name をローカルストレージに保存する処理を追加します。
// index.html
// 公開鍵・名前・電子署名をサーバーに渡す
try {
const resp = await fetch("/users/register", {
method: "POST",
headers: { "Content-Type": "application/json" },
body: JSON.stringify({
name,
did,
sign,
message,
}),
});
// サーバーから成功ステータスが返ってこないときの処理
if (!resp.ok) {
const errMsg = await resp.text();
document.getElementById("error").innerText = "エラー:" + errMsg;
return;
}
// レスポンスが正常ならローカルストレージに保存
localStorage.setItem("did", did);
localStorage.setItem("password", password);
localStorage.setItem("name", name);
} catch (err) {
document.getElementById("error").innerText = err.message;
}
これで新規登録の API の実装ができました。
新規登録と同様にフロントエンドとサーバーでそれぞれの要件を満たした実装をしていきます。エンドポイントは /users/login
とします。
フロントエンド
- DID と パスワードを入力してもらう
- 入力してもらった DID とパスワードの組み合わせが正しいかの検証
- DID、パスワード、パス、メソッドからメッセージと電子署名を取得
fetch
メソッドを使って DID、メッセージ、電子署名をサーバーへ送信- ログインに成功すればユーザー情報がサーバーから返ってくるため、それをローカルストレージに保存する
サーバー
- DID、メッセージ、電子署名を受け取る
- 電子署名が正しいかの検証をする
- DID が DB に保存されているかチェック
- 保存されていなければ未登録ということをフロントエンドに伝える
- 保存されていればログイン成功と判断しユーザー情報を返す
まずはフロントエンドから実装します。今回は DID とパスワードの入力は pem
ファイルをインポートすることとします。また DID とパスワードの組み合わせの検証は DIDAuth
モジュールの getDIDAndPasswordFromPem()
内で行っています。
// login.html
// pemファイルを受け取って、DIDとパスワードを取得
import { DIDAuth } from "https://jigintern.github.io/did-login/auth/DIDAuth.js";
document
.getElementById("loginForm")
.addEventListener("submit", async (event) => {
event.preventDefault();
const pemFile = document.getElementById("pemFile").files[0];
if (!pemFile) {
document.getElementById("error").innerText =
"ファイルを選択してください。";
}
const [did, password] = await DIDAuth.getDIDAndPasswordFromPem(pemFile);
// サーバーにユーザー情報を問い合わせる
const path = "/users/login";
const method = "POST";
// 電子署名とメッセージの作成
const [message, sign] = DIDAuth.genMsgAndSign(did, password, path, method);
// 公開鍵・電子署名をサーバーに渡す
try {
const resp = await fetch(path, {
method: method,
headers: { "Content-Type": "application/json" },
body: JSON.stringify({ did, sign, message }),
});
// サーバーから成功ステータスが返ってこないときの処理
if (!resp.ok) {
const errMsg = await resp.text();
document.getElementById("error").innerText = "エラー:" + errMsg;
return;
}
// レスポンスが正常ならローカルストレージに保存
const json = await resp.json();
localStorage.setItem("did", did);
localStorage.setItem("password", password);
localStorage.setItem("name", json.user.name);
document.getElementById("status").innerText = "ログイン成功";
document.getElementById("name").innerText = json.user.name;
document.getElementById("did").innerText = did;
document.getElementById("password").innerText = password;
} catch (err) {
document.getElementById("error").innerText = err.message;
}
});
続いてサーバー側を実装します。電子署名のチェックと DB に DID が保存されているかのチェックは新規登録と同じ処理になっています。
// serve.js
// ユーザーログインAPI
import { addDID, checkDIDExists, getUser } from "./db-controller.js";
if (req.method === "POST" && pathname === "/users/login") {
const json = await req.json();
const sign = json.sign;
const did = json.did;
const message = json.message;
// 電子署名が正しいかチェック
try {
const chk = DIDAuth.verifySign(did, sign, message);
if (!chk) {
return new Response("不正な電子署名です", { status: 400 });
}
} catch (e) {
return new Response(e.message, { status: 400 });
}
// DBにdidが登録されているかチェック
try {
const isExists = await checkIfIdExists(did);
if (!isExists) {
return new Response("登録されていません", { status: 400 });
}
// 登録済みであればuser情報を返す
const res = await getUser(did);
const user = { did: res.rows[0].did, name: res.rows[0].name };
return new Response(JSON.stringify({ user }), {
headers: { "Content-Type": "application/json" },
});
} catch (e) {
return new Response(e.message, { status: 500 });
}
}
// db-controller.js
export async function addDID(did, userName) {
// ...
}
export async function getUser(did) {
// DBからsignatureが一致するレコードを取得
const res = await client.execute(`select * from users where did = ?;`, [did]);
return res;
}
以上がログイン機能の実装となります。
ログイン中だけ使えるAPIを作ってみましょう。 従来の方法だと、サーバがユーザ情報を管理していましたね。 クライアントがログイン中か判断するために、ログインセッションを管理してログイン状態を維持する仕組みを作っていました。
それに対して、DIDはクライアントがユーザ情報を管理しています。 クライアントは、ユーザからの正しいリクエストか分かる情報を合わせて送る必要があります。 サーバはリクエストされたデータを検証することで、ログインしたユーザからのリクエストかどうかを判断できます。
このようにリクエストごとに検証することで、セッションを管理せずにログイン中かどうか判断できます。
ログイン中の判定はどうするとよいでしょうか。
今回の実装ではlocalStorage
を使って判定します。
新規登録とログインで、DIDとパスワードをlocalStorage
に保存しています。
ここで、ログインしていないユーザをゲストユーザとしましょう。
localStorage
にDIDとパスワードが保存されていればログインユーザ、なければゲストユーザと判定できます。
これらの処理をクライアントに実装してみましょう。
function isGuest() {
const did = localStorage.getItem("did");
const password = localStorage.getItem("password");
return did === null || password === null;
}
ログイン中だけ使えるAPIの例として、ログインしたユーザだけコメントできる POST /comment
を実装してみましょう。
クライアントからは二種類のデータを送ります。 正しいユーザか判断するためのDIDと電子署名、コメント投稿のためのテキストの二種類です。 サーバはユーザの検証を保持していないため、アクセスがあるたびに検証する必要があります。 そのため、ログインAPIと同じようにリクエストの検証、登録したユーザかどうかの検証をします。 すべての検証が成功したらコメントの投稿を処理します。
それではクライアントから実装してみましょう。
// comment.html
import { DIDAuth } from "https://jigintern.github.io/did-login/auth/DIDAuth.js";
// ログイン済みかどうかを返す
function isGuest() {
const did = localStorage.getItem('did');
const password = localStorage.getItem('password');
return did === null || password === null;
}
// コメント送信で処理をする
document.getElementById('commentForm').addEventListener('submit', async (event) => {
event.preventDefault();
const comment = document.getElementById('comment').value;
const path = '/comment';
const method = 'POST';
const params = { comment: comment };
// 未ログインならログイン画面に遷移する
if (isGuest()) {
location.href = 'login.html';
return;
}
// 送信に必要なデータを用意
const did = localStorage.getItem('did');
const password = localStorage.getItem('password');
const [message, sign] = DIDAuth.genMsgAndSign(
did,
password,
path,
method,
params
);
try {
// POST commentにデータを送信
const resp = await fetch(path, {
method: method,
headers: { 'Content-Type': 'application/json' },
body: JSON.stringify({ did, sign, message, params }),
});
// サーバーから成功ステータスが返ってこないときの処理
if (!resp.ok) {
const errMsg = await resp.text();
document.getElementById('error').innerText = 'エラー:' + errMsg;
return;
}
} catch (e) {
document.getElementById('error').innerText = e.message;
}
});
POST /comment
にリクエストを送る実装が出来ました。
サーバにリクエストを受け取る実装を追加しましょう。
まずは電子署名とユーザのDIDを検証します。
// serve.js
class DIDVerifyException extends Error {
status;
constructor(message, status) {
super(message);
this.status = status;
}
}
async function verifyUser(sign, did, message) {
// 電子署名が正しいかチェック
try {
const chk = DIDAuth.verifySign(did, sign, message);
if (!chk) {
throw new DIDVerifyException("不正な電子署名です", 400);
}
} catch (e) {
throw new DIDVerifyException(e.message, 400);
}
// DBにdidが登録されているかチェック
try {
const isExists = await checkIfIdExists(did);
if (!isExists) {
throw new DIDVerifyException("登録されていません", 400);
}
const res = await getUser(did);
return { did: res.rows[0].did, name: res.rows[0].name };
} catch (e) {
throw new DIDVerifyException(e.message, 500);
}
}
電子署名とユーザのDIDを検証する関数ができました。
この関数を使ってPOST /comment
を受け取る処理を追加します。
// serve.js
// ...
if (req.method === "POST" && pathname === "/comment") {
const json = await req.json();
const sign = json.sign;
const did = json.did;
const message = json.message;
const params = json.params;
try {
const user = await verifyUser(sign, did, message);
// ログイン済み!
console.log(user.name, params.comment);
return new Response("OK", { status: 200 });
} catch (e) {
if (e instanceof DIDVerifyException) {
return new Response(e.message, { status: e.status });
} else {
return new Response(e.message, { status: 500 });
}
}
}
これでログイン中だけ使えるコメント送信のAPIができました。 この例のように、DIDを用いる場合はリクエストごとに検証するようにしましょう。 目安としてログイン中だけ使える機能はPOSTにして、GETでは送らないようにしましょう。